東宝第二演劇部はいつ廃止されたか?

西堂行人『[証言]日本のアングラ 演劇革命の旗手たち』は、佐藤信(劇作家・演出家・俳優座養成所第十四期・一九六五年卒)の発言として以下のように記録している。

N——俳優座養成所に三年間いて、卒業した時にどういう方向を考えていましたか。劇団を創ろうということは?

佐藤——まず、卒業する一年前に行こうと思っていた東宝第二演劇部というのがなくなってしまった。(東宝には)第一演劇部と第二演劇部があって、第一は芝居、第二は日劇のレビューやミュージック・ホールの演出をやる。僕はその第二演劇部に行くものだと将来の目標をしっかりと決めていた。でも、なくなっちゃったんです。……それで観世栄夫さんに「俺、行くとこないんですけど」って言ったら、「それじゃあ青芸に来る?」「じゃあ行きます」って。

『[証言]日本のアングラ 演劇革命の旗手たち』(二〇一五年、作品社)一一八—一一九頁

しかしこれは正しくない。佐藤が俳優養成所を卒業した前年だと、一九六四年ということになるが、以下に示すように、一九五八年に設立された東宝第二演劇部が廃止されたのは一九六九年である。

昭和33年1958

4月4日 本社総務部より人事部を独立。本社経理部より管財部を独立。演劇を第一演劇(東京宝塚劇場、芸術座を所管)と第二演劇(日本劇場第2劇場、NDT、東宝演芸場、OSミュージックホールなどを所管)に分割。本社に劇場部を新設。関西支社の部制を廃止。

昭和44年1969

3月1日 文芸部を廃止、「製作総務室」「映画企画部」を新設。演劇部の第一演劇企画課、第一演劇制作課、第二演劇企画制作課、第二演劇演芸課を廃止、「制作室」「企画課」「制作課」「東宝現代劇」を新設。「財務部」を新設。調査室を廃止、「情報調査室」を新設。管財部を廃止、「不動産経営部」を新設。映画興行業務部を「映画興行部」と改称。事業・開発部を「事業部」(現・映像事業部)と改称。東宝会館、日劇会館を廃止。

『東宝75年のあゆみ ビジュアルで綴る3/4世紀』編纂委員会・東宝株式会社総務部『東宝75年のあゆみ 1932-2007 資料編』(東宝、二〇一〇年)

佐藤は一九七四年三月二日〜四月二十三日日劇ミュージックホール『春に舞う妖精たち』を演出したが、その際インタビューアー岬圭一に答えて、以下のように答えたことが上演パンフレットに掲載されている。

佐藤信 卒業の時、東宝に入ろうか青芸に入ろうか迷いました。

——東宝は、どの劇場ですか?

佐藤信 第二演劇部ですから日劇ミュージックホール、あるいは日劇です。でも東宝は会社員になることでしょ。ネクタイいやでね、そこで青芸の研究生になりました。

インタビューアー岬圭一「佐藤信 大いに語る」日劇ミュージックホール『春に舞う妖精たち』上演パンフレット

聞き書きの相手が誤って記憶していることはよくあることなので、それを訂正できなかったのは取材者である西堂の落ち度だ。

西堂は佐藤の発言を聞いて、日劇ミュージックホール『春に舞う妖精たち』上演パンフレットにあたるべきだったか? もちろんそんなことはない。けれども第二演劇部がなくなっても日劇やミュージック・ホールのレヴューがなくなったわけではないのだから、青芸を選んだ理由としてはおかしい、というごく単純な推論ができなかったのは批判されるべきである。

なお『東宝五十年史』には「一九五八年四月四日付の職制改革によって演劇部は第一演劇部と第二演劇部に分割された」(四七一頁)とある。また「演劇部を第一演劇(東京宝塚劇場、芸術座を所管)と第二演劇(日本劇場、日劇ミュージックホール、日劇ダンシングチーム、東宝演芸場、OSミュージックホール等を所管)とに区分したことであった」(二一九頁)という記述もある。おそらく同年二月に日本劇場で第一回ウェスタンカーニバルが開幕し大ヒットしたこともあって、演劇部の業務が増え、「演劇」と「芸能」の制作を切り離すという判断がなされたのだろう。

これもまた、知る必要はないことだ。だが、一九六六年九月に新しい帝国劇場の開場を控えていた東宝が、一九六四年時点で演劇部を再統合するには余程の理由がないといけない、ということも思い至るべきではなかったか。

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