かたばみ座の意義について

…かたばみ座に「若いお客さんの歌舞伎研究の一助」という意識があるとは知らなんだ。しかしそのこととは別にして、この新聞記事を書いた記者がどこまで演劇に詳しかったのかはよくわからないな。松竹の息のかかってない在京劇団って、前進座をはじめ他にいくつもあっただろう。そもそも花月劇場は複数の劇団の根拠地だし。東宝(と吉本)は在京でないという判断なのかもしれんが。以下、引用は『讀賣新聞』一九五二年九月一二日夕刊四面。

独立劇団の生態
かたばみ座☆花月劇場

芝居といえば松竹ということになるが、いま東京に松竹の息が全くかゝっていない劇団が二つある。かたばみ座(浅草松屋五階)と花月劇場(六区)の剣劇だ。どちらも苦しいヤリクリをしながらほんとうに芝居を愛する人々に支えられ、真面目なファンをもっている。以下はその生態—。

苦しい乍らも結束
常連の愛情に育まれ
かたばみ座
かたばみ座が編成されたのは廿四年の春、博覧会跡の都民文化館(上野池の端)に板東鶴蔵を中心に松本高麗之助(顧問格)板東薪車、板東竹若などが集まって結成され大歌舞伎では上演しない珍しい狂言を並べて特異な存在になったが、この劇場が焼失、現在の建物に移ったのが去年の二月、その後沢村小主水、片岡右衛門、沢村亀音らの参加があり現在は卅三名の座員を擁している。これが一日二回興行、入場料は百五十円(半分税金)で入場者は二百あればいゝ方。その乏しい収入の中から大道具、小道具、衣装、カツラ、宣伝費などの一切をまかなわなければならないので役者たちの給金は知れようというもの。
 そこで松屋から宣伝のため援助費が出ているといううわさを須田支配人にたゞすと、『松屋とは別に関係はない。このビルも東部電鉄の所有だから、われわれは東部から借りているわけだ』と否定する。彼らの赤字は放送と毎月末の地方巡業によってカバーされはするが定給はないので生活は不安定。しかし座員は堅く結束してさながら小さな共和国というかたち。座員や家族の病気の時などは各自の給料をさいてこれを助けている。
 わずかな入場客の大半が常連で物質的、精神的に援助してくれるという。深川のI氏(某会社重役)は場内に飾る久寿玉七つを一週間ごとに新しいのと取換えてくれ、月に二回は必ず一万円を楽屋に届けてくれるという。高麗之助びいきの埼玉県の老婆は、狂言の替わり目ごとにボタ餅を重箱へつめてもってくる。これは高麗之助の甘党を知っているからだが、黙って案内ガールに重箱を預けて、終演後はまた重箱をもらって帰る。従ってこの老婆の名前はだれも知らないということである。
 若い役者連は給料こそ少いが一日に五役も六役も演れるというが魅力で創立以来やめた者はない。かえって大歌舞伎の大部屋連が入座を希望してくるという。座長の鶴蔵は『苦しいけれど、若いお客さんの歌舞伎研究の一助にもなればと思い、またお年寄りの郷愁に応える事にもなるので舞台は楽しい』と相好を崩す。

板挟みの座長(梅沢大江)
月給=中堅以下で六千円前後
”大入袋”は過去の夢
花月劇場

 花月劇場の場合は平和興行会社に属する梅沢登、金井修、不二洋子の一座や鈴鳳劇有限会社の大江美智子一座が交互に出演している。どちらの会社も往年の篭虎興行部の分身で、社長はいずれも創設者法良浅之助氏の三男と四男、劇場の所有者吉本興業の歩合で、劇団は会社から社長に月給が支給され、座長はこれを座員に按分して支払う。そのため座員を増やせば、座長の取り高は少くなるが、人手不足ではいゝ芝居は出来ず、座長は苦しい訳である。現在、梅沢…(一部欠落)…中堅の座長で四、五万円が精々。従って中堅以下は月給六千円程度。
 これでは苦しかろうといえば大江一座の青年部の福岡美津夫は『飯と宿はついて回り、布団屋か蚊帳の心配はいらず、風呂はたゞ。小遣がなくなれば座長に借りるから、こんなノンキな商売はない』と語る。大江美智子一座となれば座長一人が看板なので、彼女が休めば休演しなければならず、六十名の座員を抱えて風邪でも腹痛でも三六五日休んだことはないという。
 浅草で面白いことは大入り袋というものがなくなったこと。土地の顔役やヤクザにも出さなければならず、それではキリがないというので廃止された。したがって、盆や正月の下回り役者のさゝやかな夢はけしとんでしまった。

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